ドッキリの思い出

理学部棟で後輩の新庄(ニックネーム)に遭遇。


皆知らないと思うが、この細身の優男とはとある事件をきっかけに
全く会話を交わすことがなかった。彼が俺を避けていたのだと思う。


あれは彼が入学したての頃。そして俺が5年目のシーズンを迎えたその頃でもある。卒部して間もない頃でもあり、まだ部との繋がりも強かった俺は今や恒例?となったとあるドッキリを仕掛けようと、新庄を含めた新入生が入ったばかりの部に遊びに行ったのである。


ドッキリと言ってもなんのことはない。新入生のフリをして部の例会に参加したのだ。体育会系の部であるがゆえに、OBOGは礼を尽くされる前提があってこそのかわいいイタズラだった。


俺は「ただ普通に参加するだけじゃつまらない」と思って、ある種の演出を加え、ちょっと痛い新入生になりきってみた。もしかしたら自分の地の部分も混じってたかもしれない。今ほどではないが太り気味の体にぴたっとしたTシャツを着て、挙動不審におどおどとしていた。


そんな様子を見て、事情を分かっている上級生は笑ってくれたが、新入生、特に一緒に練習をしている男子たちは怪訝な表情をして、ほとんど話しかけてくれることはなかった。


しかし、新庄だけは違った。彼は、そのちょっと変な新入生にやさしく今まで習ったステップを教えてくれたのだ。「わからないことがあったら何でも聞いてくれよ!」という彼のさわやかな笑顔に、俺は罪悪感を通り越して痛く感動した。「こいつとは本当の友達になれる」と思った。今もこうして書いていて涙が出そうである。


そうして新しくできた友達、新庄にいろんなことを教えてもらいつつ、いつしか自分の中で錯覚するほどに新入生として部に溶け込んできた頃、ネタばらしの時間がやってきた。「集合!」のかけ声がかかり整列する部員たち。俺は当然新入生のいる位置にいたが、「今日はOBのかたが来てくださっています」の声でいそいそと前に出た。ざわめく新入生。


「こんにちは〜。どうも、OB1年目のプルトンです」


どっ。


その後、あんなに怪訝な顔をしていた男子どもはみんな笑顔で挨拶に来た。
「いや〜やられましたよ」
「なんか変な人が来たと思って」
うんうん。君たちの冷たい視線は忘れないよ。ところであいつはどこだろう?
俺は新庄に優しくしてくれた礼を言おうとその姿を探す。「あ、いたいた…」彼を見つけて手招きをした。だが彼は、にがそうにはにかむのみでこっちに来る気配がない。ならばとこちらから伺ったのだが、彼の足がなぜか後ずさっている。そして後ずさりながら彼が発した言葉は衝撃的なものだった。


「ごめんなさい。本当にすみませんでした。」


軽い気持ちでやったイタズラは18歳のデリケートな心をひどく傷つけてしまったのかもしれない。その後は挨拶をしてもこわごわ返事をされ、雑談などしようと思って話しかけようと思っても奥の方へ引っ込んでしまうようになってしまった。


時は流れ、冒頭の邂逅に至る。あれから丸2年がたち彼のわだかまりも解けたのだろうか、「どうして(俺が)ここにいるんですか!?」と彼の方から話しかけてくれて、その時以来の会話が実現した。ずっとあった喉のつかえがとれたようで、俺もうれしかった。



今日のご飯
朝 のりまき 600kcal
昼 混ぜご飯と野菜ジュース 700kcal
夜 手羽先とのり弁 700kcal