Innocent 18
新年度である。
正確にはもう新年度になって６日も経つのだが、
学生の新年度スタートは社会のそれより遅い。
僕も８日からの本格始動だ。
今年もうちのアパートにぴっかぴかの新大学生が何人か入居した。とはいっても僕の暮らしには全く関係がない。引っ越し用のトラックがちょっと邪魔だったくらいで。
昔のアパートだと共同の風呂やトイレがあり、それに伴い住民同士の交流もあっただろうが、今のアパートは隣同士の人間の顔も分からないし、顔を合わせても碌に挨拶もしない。さみしいもんだ。慣れたけど。
そんな無機質で枯れきった我がアパートに不釣り合いなパステルカラーの人影があったのでおやっと思った。女の子だ。真新しい自転車に百均とハンズの袋を下げて、買ってきたばかりの自転車のカギを取り付けるのに悪戦苦闘していたのがなんともけなげな気がして、いつもはしない挨拶をしてみたくなった。
「新しく入ってこられた方ですか」
「はい、ここの人ですよね？ 何号室なんですか？」
「あ、僕は２０７号室です」
「私５０５号室なんですよ」
「…ここは階段しかないから５階は大変ですね」
「ええ（笑）よろしくお願いします」
「よろしくお願いします。分からないことがあったら何でも聞いてくださいね」
…びっくりした。僕が聞いてもいないのに
＞私５０５号室なんですよ
なんて言ったから。しかも初対面の男に。女の子が。警戒心のかけらも見せずに。
びっくりする僕を尻目に、屈託のない顔で笑顔を見せるその子には「無垢な」という言葉がぴったりだった。その顔に誘われて自分の驚きをなんとなく愛想笑いでごまかした僕と好対照であった。
マクドナルドのお愛想０円とは比べるべくもない、
期間限定の輝くPricelessスマイル、いただきました！
